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 僕の住む村には、たった一人の錬金術師がいる。
 ケシュという名の錬金術師は、他の村の錬金術師達のように医者の真似事などはしていない。医者と仲が良いわけも無く、薬の調合もしない。
 とっても無愛想で、外に出ることはあまり無かった。
 彼はいつでも狭い自分の家で、何かの研究や発明をしているようだった。
 村の人々は時々彼の家から青い光が洩れていたと言う。
 僕はそれを見たことは無かったが、ケシュが一体どんな幻想的な研究をしているのだろうかと興味はあった。


 ある日、僕らの村に嵐が降りて来た。
 嵐は強く家を鳴らし、雨は大粒で作物を踏み荒らした。
 嵐は三日で僕らの村を通り過ぎ、また何処か小さな村へ向かって行った。
 その後僕らは嵐にめちゃくちゃにされた畑と自分達の小屋を建て直し修繕したり、嵐が持って来て落として行ったものも綺麗に片付けた。
 僕はその後村を抜け出し、近くの森の中にある泉に水を汲みに行った時だった。
 もちろん村にはちゃんとに小さな川が流れ飲み水用の井戸もあるのだが、僕はいつも森にある泉の水をすくって飲む派の人間だ。
 
 ユールの森はいつも微かに光ってい。何故光っているのかは知らないけど、緑の葉の一枚一枚が夜になるとじんわりと光るのだ。とても綺麗なその風景を見ることも、僕がいちいち森にまで水を汲みに行く理由の一つ。
 泉から汲み上げたばかりの冷えた甘い水を飲みながら、ジン割と光る森を眺めるのが僕はとても好き。
 その日も僕はいつもの通り、森にできている小さな獣道に沿って泉に向かって歩いていた。
 そしていつもと違い、今日は誰かが森に居た。
 向こうからやってくる人影は光に照らされ、どんな姿をした人だかだんだんわかってくる。
 僕と同じ年頃の少年かと最初は思ったけれど、金の髪から覗く長い耳を見てエルフだと知れた。
 実年齢はわからないけど、見た目は僕と同じ年頃の十歳前後の少年だ。
「今晩和」
 僕に気付いたエルフの少年が先に話しかけてきた。
「こんばんわ」
 僕も挨拶を返し、まじまじとエルフの少年を見つめた。
 エルフの少年は僕の視線に気付いたように目を細めて微笑んだ。淡い色彩の金の短い髪がさらさら揺れ照らされちらちら光る。滑らかな肌は新雪ほど白く、瞳も淡い青・・・奥に深い青緑が煌めくのがとても綺麗。
 僕は子供の姿をしたエルフを見るのが初めてで、少しドキドキしながらエルフの少年を見ていた。
 エルフの少年は僕のブシツケで好奇心旺盛な目線にも嫌な顔一つしない。その時、僕はやっぱり中身はもうりっぱな大人なんだろうと思った。
「君は、リナムの村の子?」
 エルフの少年の質問に僕はうなずき、それから何でそんなことを聞くのだろうと不思議に思った。
「僕はリリスの森のレリアス。」
「ぼくはテリュト。リナムのテリュトです。」
 僕もレリアスという名のエルフの少年に名乗った。
「ねえ、テリュト。僕は君の住むリナムの村に住む錬金術師のケシュという人に会うために此処まで来たのだけど、彼はまだこの村に住んでいるのかな?」
「ケシュ?ケシュに何か用なの?」
「よかった。彼はまだリナムの村に居るんだね」
 あからさまにほっとしたようにレリアスは微笑んだ。
「うん。」
「僕はケシュの古い友人の友人なんだ。彼に頼まれて、ケシュに会いに行く途中だったんだ。」
「ケシュの友達?」
「うん。」
「その人もケシュみたく錬金術師なの?」
「ううん、彼は魔法使いなんだ。」
 魔法使い!あんなに無愛想なケシュに友達がいることにも驚いているのに、まさかその友達が魔法使いだったなんて。
「すごいや!君は魔法使いと友達なの?」
「まあね、それでケシュの家は村のどの辺りなのかな?」
 レリアスは照れたように笑いながら僕にそう聞いてきた。
「ケシュの家は森から出て二番目に森の近くにある小さな小屋だよ。壁は土、屋根は深い青色。」
 ちなみに森に一番近いのは僕の住んでいる小屋だ。
「ありがとう。」
「ね、ねえ、」
 レリアスはにっこり笑って僕にお礼を言った。そしてまた村のほうに行こうとする。僕は慌ててレリアスを引き止めてしまった。
「なに?」
「僕も、僕も君と一緒にケシュの家へ行っても良い?」
「君も?でも君は用事があってこの森に来ていたんじゃなかったの?」
 レリアスはそう言って、僕が持っている木で出来た頑丈そうな縄のついている大きな桶を見た。
「いいんだ。僕、君と一緒にケシュの家に行ってみたいんだ」
 レリアスは笑って、「良いよ」と言って僕を見た。





 
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