それは雪が深々と降り続く中、密かに語られる。 ラディスロッド国の過去に起こり、未来には誰も知らない物語。 豊かな森の中に、姫は顔を覗かせた。 豊かな金髪は滑らかに緩い波に揺れる。白い肌。大きな青い瞳。林檎のように赤く色づいた可愛らしい唇。 いまだ少女のまま育っていった姫は、とても美しい。 笑みは花々を育て、歌声は清い泉を湛えた。 青年が地に足を踏み締め立っていた。 姫よりも少し年上の青年は逞しく、精悍な顔つきをしている。 優しそうな眦は姫を見つめ・・・ 二人は恋に落ちていた。 しかし、その恋は決して許されてはいけないものだった。 姫は、古来から世界に住むエルフの末裔だった。 青年は、純粋な人の子。 森の人と呼ばれるエルフと、森を切り開く街の人。両者たちはいがみ合い、結ばれることが許されるわけのない・・運命。 両者につながりを持つことを決めたのは、今より昔、古代から世を見渡し神々だった。 しかしそれに抗い、エルフの姫と青年は手と手を取り合うのだ。 そして、争いが起こった。 二人は追われた。森の人エルフの軍勢と森を切り開く街の人の軍勢に。 両の軍勢はそれぞれ二人を引き離そうと躍起となり、しかし二人はなおそれに抗おうとする。 いつしか、二人の周りには多くの人たちが囲む。 エルフと人間。純粋な思いを抱きあう二人に心を打たれた者達がだんだんと集まり、二人を中心とした小さな群れとなった。 争いを嘆く二人の心とは裏腹に、両の軍勢は互いに一歩も引かず、多くの村や集落や森が枯れた。 日に日に衰えていく世界に、二人は何度も迷い・・ある日とうとう、その互いの手を離そうとした・・・・・・・。 『おやめ、二人。その手を離してはいけない。』 神々しい声が言い、灰色の空に巨大な神が降臨する。白い影は慈愛に満ちた悲しげな顔をし、二人を光で優しく撫で、両の軍勢の武器を取り去った。 『なんと悲しく醜い小競り合い。』 古代の神は憂いて言い、そして告げる。 『二人の婚姻を許しましょう。世界はまた、ゆっくりその傷を癒し一体するでしょう』 神はそしてすぐに何処かへ姿を消し、後に残された人々はそれを遠く、遠くまで見送るように見つめていた。 彼らは怪我人を癒し、争いによって奪われた命を弔い、故郷へ帰っていく。 二人はその後国を出、誰も居付かぬ枯れた広大な地に腰を据える。 また一人、また一人と人が増え、枯れた地はだんだんと緑が萌え豊かになり、外界との交流も図るようになる。 それは一つの小国となり、新しいその国は初代王と同じ名となる。 エルフの美しい姫が寄り添う、その王が住む豊かな国の名は―――― ラディスロッドと。 おわり 2007.10.26 ラディスロッド序章。 数年前に書いたものを新たに書き出した小説。 |