其の四


 辿り着いたのは錆び付いた場所だった。
 深い夜のこの時刻には強くそう感じる。深い森に閉ざされた地。

 狭い集落だがその雰囲気はやけに重苦しく、立っているだけで圧力を感じる。
 何かの結界の類いだったり?思考しながら血生臭い通りを行く。
 一族根絶やし。しかも同胞の男によって。
 過去、木の葉に訪れたうちは一族の惨殺を思い出す。身を血に汚した男は一体何を考えていた。
 弟一人を残し殺戮を犯した男は、そして月の血脈を枯らした男は。

「・・・・・・・。馬鹿らしい」
 思わず思考が言葉になる。
 そんなことを知ろうと何も関係ない。
 ただ、こちらも殺すだけ。

 ただそれだけだ。


 眼球の裏をひらひら舞うように長い黒髪がそよぐような残像を見た気がしたが、禦侮・・・ナルトはそれを振り落とすように瞼をぎゅっと閉じ数度軽く頭を振った。
 短い前髪と首の後ろでぞんざいにまとめて縛った尻尾のようなあまり潤いの無い金髪がばさばさ揺れた。

 ナルト?

 不安定になった意識を感じ取ったのか、別行動している男の心配げな意識が流れ込む。
 過保護だ、そう心で呟いてからナルトは意識を集中させて辺りの気配を慎重に探る。
 先程からなにやら生きた者の気配を感じる。
 それが人か、動物か、それとも妖の類いかはまだ分からない。
 しかし動きからしてある程度の知能を持ったもの。あちらも明らかにナルトの気配を探っているようだ。しかしあまりにもそれは稚拙。
 本能で動いてるのかもしれない。
 意識を研ぎ澄ます必要も無い、気配の元へとナルトは首をめぐらせたんっと微かな音を立て、異常なほどの脚力で軽やかに空に踊った。
 一瞬にして足を地にたん・・・と付けると、その着地点は先程の場所から建物を六つも抜かした森の近くの立派な建造物の目の前だった。
 ここからも微かに争いと血の匂いがする。
 そう辺りを探りながら考え、そっと入り口から進入する。
 少し前までは人の手が行き届いた立派な屋敷だったのだろう。しかし今は荒れ果て、なにかからからと乾いて枯れ果てたような印象を抱かせるだけのただの廃墟だった。
 埃の匂いにナルトは無表情だった顔をやや歪めて足を踏み入れた。
 木の廊下を歩くとぎしぎしと軋む音がした。
 その音にナルトは顔を顰めるが足音を消すことはしなかった。
 元々音を消す、など気配を押し殺すことが嫌いだった。それをする必要が無い場合は、ナルトはとにかく自分の存在の誇示するためにわざと音を立てて行動した。
 それに、自分以外の気配は一つ。
 相手の出方を窺う為にと言う理由もあった。

 埃と土に塗れた廊下の軋む音が、ナルトの鼓膜を痛いほどに振るわせた。
 気配は消えていない。
 気配の在り所を窺う事を忘れずに、ナルトは血生臭い屋敷の隠されたものを探り出すように部屋を見回してゆく。
 そして、奥深くに行き着いた時、夥しい血液が部屋中にこびり付いた一室を見つけた。
「これは・・・・」
 すごいな・・・。

 青い瞳を一瞬見開いて見つめたその一室は、天井、壁、畳、そして障子までも赤黒いかさかさに乾いた血液でその地の色を窺わせなった。
 他の一室よりも装飾の豪奢なこの室はこの散々な状態の中でも場に流れる空気が違うように感じる。
 ここが、根底か。

 土足で足を踏み入れたその部屋には何も見当たらなかった。
 もちろん、部屋で快適に過すため仕立ての良いであろう調度品は所々に鎮座されているが、この血液の元、骸はどこにも転がってはいなかった。
 考えて見ればこの集落に足を踏み入れてから、殺戮の跡は見えても死体を一つも目にしていない。拭い去れない違和感の一つはこれだ。

 誰が、これを為したのか。

 綱手からナルトの元に追及の命が下りたのは事件から間もない時でまだ何の介入も為されていないはずだ。
 ならば、これは。

 これに近しい人間、もしくはこれを為した人間。






 音も立てずにナルトは勢い良く畳みを蹴り身を躍らせた。
 空気を切る音が鼓膜を震わし、項で纏めた髪を靡かせた。

「!」

 相手の驚愕の気配を感じ取ったがナルトは手を緩めず、今まで自分の後を追っていた人物の喉元に鋭く磨かれたクナイを突きつけた。

 素早く目だけで見下した姿は全身真っ白の男だった。

 瞬間まさか自分の使いの男かと見間違えたかと思った。
 しかし、白い衣、銀と白不思議な境界の色合いの髪。自分が良く見知って見慣れた姿に良く似ているがその項で縛られた髪質は柔らかくふわふわしていて、作りの美しい顔は無残な傷に覆われていた。
「何者だ?」
 冷えた声でナルトが問うた。


20080209

novel  →